【第4章 陰陽五行の理 F】共感の法則

陰陽五行においては「共感の法則」がかなり重要視されている。配当表を見れば理解できるが、「色」「方向」「季節」「星」といった個々の事物や十干、十二支は最終的に「木火土金水」の五行に集約される。この五行を基礎にした共感呪術は昔は盛んに行われ、現代においてもそれは細々とではあるが残っている。

それでは日本文化に現在でも残っている陰陽五行に基づいた共感呪術を二例紹介しよう。

柊と鰯(迎春の呪術)

節分の夜に鰯の頭を柊に刺して戸口に出す風習は日本各地に見られるが、これは春を迎える呪術つまり「迎春呪術」の一環である。「柊」はその文字の作り、つまり「木篇に冬」から冬を表す植物であるとされた。そこで柊を戸口の外に出すということは冬の気を持つものを家の外に出すということから冬の追い出しを意味し、春を迎えるということにつながっていく。「鰯」は和製の文字であるが、その文字の構造が冬の象徴物としての意味を持っているという。まず篇の「魚」の部分は、魚は水に棲むものであるということから水の気に属するものの象徴として捉えられる。さらに季節の中で水の気を持つものは冬である(配当表参照)。またつくりの「弱」の部分は冬においては万物が衰弱するということからやはり冬を連想するものと捉えられる。つまり、「鰯」はその篇とつくりが両方とも冬を象徴する文字によって表されているのであり、この柊に鰯を刺して戸口に出すという行為は、冬を家の外に追い出すという行為の擬制、つまりは共感の法則に基づいた行為であり、そうすることによって一刻も早く春を迎えようという呪術なのであるという(吉野裕子『陰陽五行と日本の民俗』)。

節分の豆まき(迎春の呪術)

節分の豆まきは現代に残る陰陽五行に基づく呪術としては最も広まっているものであろう。最も、この行事が陰陽五行に基づく迎春呪術であると知っている者は少ないであろうが。豆まきというのは火で煎った大豆を「鬼は外」というかけ声とともに外へ投げ捨て、さらに家の中に残ってしまった豆を「福は内」というかけ声とともに食べるというものである。豆まきに用いられる大豆は丸くて固い穀物で、「丸」という状態も「固」という状態も五気の中では金気に属するとされている。この大豆を「煎る」という行為、外に投げ捨てるという行為、食べてしまう(噛み砕く)という行為はいずれも金気を持ったものを追い出すあるいは打ち砕くという行為であり、木気を剋する金気(相剋説:金剋木)を追い出したり打ち砕いたりすることによって木気に属している春(配当表参照)を迎えやすくしようという呪術なのであるという。また「鬼」は陰陽説のなかでは陰の気に属するとされているもので、陰の気の勝っていた冬から陽の気に徐々に移行していく春を迎えるにあたっては障害となるものであり、つまり豆まきというのは木気を剋する金気(丸くて固い豆)とともに陽気と対立する陰気をも家の中から追い出してしまうという、春と対立するものを家から追い出すという行為の擬制つまりは共感の法則の応用であり、春に対立するものが追い出された家の中には春が訪れやすくなると考えられたという(吉野裕子『陰陽五行と日本の民俗』)。