【第4章 陰陽五行の理 C】五行説

五行説

天地開闢の際に発生した二つの気「陰」と「陽」の交合の結果、木・火・土・金・水の五元素が生じたとされる。この五元素の輪廻や作用が「五行」と呼ばれる。五行の「行」は動くこと、廻ること、作用を意味していて、本来は「天」つまり古代中国に認識されていた宇宙の五星(木星・火星・土星・金星・水星)を意味していた。このことから、五元素の作用・循環が五行となったのである。元来はあらゆる現象を分類するための概念だったが、陰陽思想と一体化した後に、万物を成り立たせている「気の五つの様態」を表すようになっていった。

この五行思想には「相生」「相剋」「三合」という三つの法則が考えられた。ここではそのうちの「相生」と「相剋」についてどのようなものであるかを見ていこう。

相生

中国前漢時代の儒家董仲舒によって説かれたものであり、木は火を生じ、火は土を、土は金を、金は水を、水は木を生じるという五気が順送りに相手を生み出して行く無限に循環する関係である。これは「木生火(もくしょうか)」「火生土(かしょうど)」「土生金(どしょうきん)」「金生水(きんしょうすい)」「水生木(すいしょうもく)」といった言葉で表現される。この考え方の基礎となっているものは、割合と簡単に理解できる。つまり、「木生火」は木と木を擦り会わせて火を起こす方法から連想され、「火生土」は物が燃えて灰が残るところから連想され、「土生金」は鉱物の類の多くは土の中に埋もれていることから連想され、「金生水」は(これは説明の根拠が求めがたいが)空気中の湿度が高いと金属の表面に水滴が生じることから説明され、「水生木」は植物が水を養分としていることから連想されるという。

相剋

中国戦国時代の思想家・鄒衍(すうえん)に説かれたといわれ、木は土に勝ち、土は水に勝ち、水は火に勝ち、火は金に勝ち、金は木に勝つといった考え方で木火土金水の五気が順送りに相手を剋していくものである。これらはそれぞれ「木剋土(もっこくど)」「土剋水(どこくすい)」「水剋火(すいこくか)」「火剋金(かこくごん)」「金剋木(ごんこくもく)」といった言葉で表現される。「木剋土」は木が地中に根を張って土を痛めつけるものであるという発想から、「土剋水」は土が水を塞き止めるものであるという発想から、「水剋火」は言うまでもなく水の消火作用から、「火剋金」は金属を加工する際には熱を加えるという発想から、「金剋木」は木を切り倒す際には金属製の斧などが使われるという発想から連想されるという。

相生と相剋の関係はいわば五行思想における陰陽思想とも言えるものである。つまり、木火土金水同士の関係において「相生」という「陽」の相を持つ関係と、「相剋」という「陰」の関係が五行を支配しているのである。だから前述の陰陽説の考え方でいけば、逆説のようではあるが相生そのものの中に相剋があり、相剋そのものの中に相生があるといえる。具体的な例を挙げて言えば「相剋の中の相生」の例として、土は木の根によって締め付けられることによって(木剋土)崖崩れを起こさないですむという側面がある。言い換えれば、土は木に剋されることによって自分自身を保っていられるということになる。つまり、自分とは本来の対立する何ものかによって自分自身の存在が証明されるという考え方が陰陽五行思想の中には存在するのである。また「相生の中の相剋」の例としては、火が燃えることによって灰を生み続ければ、燃えるものがなくなっていつか火は消えてしまうというものがある。言い換えれば、火は燃え続け灰を生み出し続けることによって自らを殺しているのである。つまり、自分自身の存在を証明することによって自分自身の存在を危うくしていくという考え方も陰陽五行思想の中には存在するのである。

これらのことから五行説というのは相生相剋の理論からわかるように物事の相対的な側面を考えていくものであり、木火土金水という五つの気それぞれが象徴する働きを考えていく「象徴の世界観」であるといえる。

さて五行思想は単に世界を構成する五元素としてあるばかりでなく、色彩、方位、季節、惑星、天真、人間精神、徳目、内臓、十干、十二支等といった宇宙間の全ての現象を象徴するものである。あるいは、万物は五気に還元されると言い換えることもできる。以下は五行がどのように万物に配当されているかということを示した配当表である。(吉野裕子『陰陽五行と日本の民俗』人文書院より)

五行説 配当表(表1)

*参考『陰陽五行と日本の民俗』
五行
五色
五方中央西
五時土用
五星木星火星土星金星水星
五常
十干甲乙丙丁戌己庚辛壬癸
十二支寅卯
(辰)
巳午
(未)
辰未戌丑申酉
(戌)
亥子
(丑)

(旧暦)
一月
二月
三月
四月
五月
六月
七月
八月
九月
十月
十一月
十二月

表を見ると、実にいろいろなものが五行に分類されている。配当表を縦に見ていったときに、その項目一つ一つは互いに象徴関係にある。例えば「木」の項目を縦に抜き出してみると、青、東、春、木星、仁、甲乙、寅・卯・辰、一・二・三月となる。「青春」という言葉がこの陰陽五行の配当表の意味を理解するにはとても良い例となるだろう。「青」「春」という漢字の組み合わせ自体が配当表に相当するものであり、また「青春」という言葉の意味が表すもの自体も「若者」や「人生の春」、仁(人を愛する心:「仁」で表される「愛」という言葉にはキリスト教的な隣人愛も含まれる)多き年頃などであり、これもまた配当表に相当するものである。また、五気のうちで有機物は木気のみであり、生命にあふれる「春」、あるいは生命の源である太陽が昇る方向でもある「東」を象徴しているということも興味深い。

このように、陰陽五行とは陰陽説という抽象の世界観の側面を強く持ったものと、五行説という木火土金水という象徴のそれぞれの働きにより世界が動いていると考える象徴の世界観の融合によって成り立っているものなのである(この論文で使われている「抽象の世界観」「象徴の世界観」の二つの考え方は互いに反発しあったり否定しあったりするものではなく、一つの世界観を理解するときに当てはめることの出来る二つの視点だということを再度強調しておこう)。