【第4章 陰陽五行の理 E】十二支

十二支

十二支とは周知の通り「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・鳥・戌・亥」のことで、現代ではほとんど年末年始のマスコットと化している。しかし本来の十二支は十干に組み合わされて使われる陰陽五行思想に基づく理論の一つであり、月齢の周期が一年で約十二回繰り返される事と、五星(陰陽五行配当表1参照)のなかで最も尊貴とされた木星が12年で天を一周する(厳密には11.86年)ことから、その運行にしたがって十二年を一つの区切りとして分け、更に一年ごとに名前を付けたものが十二支である。ただし、木星は太陽や月とは逆に西から東に向かって移動するので、陰陽五行では「太歳(たいさい)」と呼ばれる太陽や月と同じに東から西に向かって移動する木星を擬制した想像上の星を設けてそれを神格化している。このことから陰陽五行が天体の運行を重要視していたということがわかる。

ちなみに十二支は年だけではなく月にも日にも時刻にも方位にも配当されているが、ここでは月について見ていこう。

十二支 配当表(表3)

*参考『陰陽五行と日本の民俗』

一月二月三月四月五月六月七月八月九月十月十一月十二月

五行


























さて、この十二支表の中に土気が含まれていないことに気づいたであろうか。五気のうち「木火金水」は十二支に配当されているのだが、土気だけは他の四気とは違った配当のされ方をしている。すなわち、それが「土用」である。「木火土金水」のなかで、土気は春夏秋冬の四季の終わりのそれぞれの「十八日間」を占めている。その土気の配当されている期間が「土用」であり、十二支で言えば「辰・未・戌・丑」の各月の中にある。この各月は配当表ではそれぞれ「墓気」にあたっている。「墓気」とは文字の意味の通り、季節の終わりを表している「気」である。ちなみに「生気」は季節が生まれるつまり季節の始まりを表し、「旺気」は季節の盛りを表している。土用がこの「墓気」の時期に配当されているということにはきちんとした意味がある。

万物は「陰と陽」というように対立してばかりいるものではなく、循環するものである。一年を例にとって言えば、陰の冬と陽の夏は互いに相対立するものであるが、循環している。陰の冬はやがて陽気発動の春となり、陽真っ盛りの夏を経て陰の萌す秋となり、また極陰の冬となる。次の季節はいきなりやってくるのではなく、徐々に次の季節に移って行く。その次の季節へ移っていく過程が「土用」である。「土用」の作用は循環の促進であり、土気と同じく両義性を持っている。つまり、土気は四気(木火金水)が他の気との相対的な関係において陰の気と陽の気の両方の性質を持ちうるということに対し、土気単独の属性として一方において万物を土に帰す死滅作用という陰の気と、他方においての万物を育みそだてる育成作用という陽の気という正反対の二つの作用を持っているということである。この土気の両義性を一年の季節の推移において反映させたものが「土用」であり、過ぎ去るべき季節を殺し、来たるべき季節を育成するものなのである。「土用」は単に鰻を食べるためのものではないのだ。

十二支思想にもこの「土用」に代表されるように万物循環の思想が色濃く見られる。十干「甲乙丙丁戊己庚辛壬癸」と同じように、十二支「子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥」の文字自体にも植物の繁栄の輪廻が表意されている。

「子」は新しい生命が種子の内部から萌し始める状態、「丑」は絡むことつまり芽が種子の内部でまだ伸び切っていない状態、「寅」は草木の発生する状態、「卯」は草木が地面を覆う状態、「辰」は草木が伸長する状態、「巳」は繁栄の極限の状態、「午」は衰微の兆候が見られる状態、「未」は成熟が始まって滋味を生じた状態、「申」は成熟が更に進んでいく状態、「酉」は完全な成熟に達し滅びの兆候を内包している状態、「戌」は滅びの状態、「亥」は生命力が完全に衰えしかし種子の内部には新しい生命が内包されている状態をいう。

要するに、十二支も十干と同じく「子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥」の十二文字にそれぞれ意味を与え、そのそれぞれの属性による働きと循環によって世界が動いていくと捉える「象徴の世界観」なのである。